
美術サークルという言葉はとっさに出た。本当は何でもよかった。月江が行きたいサークルに入りたいって言えば何も考えていないみたいに思われるから、わざと美術サークルと言った。引きこもってからは絵も文章も書いていなかった。発表する場所も見せる相手もいないし、心に余裕もなかった。
美玖「そんなこと、ないよ」
月江「美玖ちゃんが描いた漫画や小説読んでみたいなぁ」
美玖「今はパソコンでプロみたいに書く人がいっぱいいるんだよ?
月江「へーそうなんだ」
美玖「私なんて無理だよ……パソコンもないし、そこまで上手じゃないし」
月江「人の評価なんて気にしなくてもいいんじゃないかな?」
美玖「……だって、見てもらえなかったら悲しいじゃん」
自分がオリジナルのお話やキャラクターを書いて誰が喜ぶんだろう。私は自分が生み出したキャラクターを幸せにしてあげる自信がない。私も私の大好きな人達も主人公にはなれない。主人公は恵まれてて、欲しいものが何でも手に入る。何をやっても評価されて……ずるい。いつでも楽しそうに笑っているのは、意地悪で最低で自分のことしか考えないヤツばっかり。私が失敗するのをじっと待ってる。アイツ等はいっつも……。
月江「美玖ちゃんは自分が好きなことをしてて楽しくないの?」
美玖「なんだか、自分が何を好きだったのかわからなくなってきちゃった……かも」
月江「それじゃあ自分が何が好きなのかを探せばいいんじゃないかな?」
美玖「うん……けど見つかるかな」
月江「きっと見つかるよ。でも、それはパソコンや携帯を見ても見つからないかも」
美玖「どうして?探せば出てくるでしょ?」
月江「調べる道具が沢山あっても見つけるのは美玖ちゃん自身だよ?誰かの意見は美玖ちゃんの意見じゃない。外を歩いてたら急になりたいものが見つかるかもしれないよ」
美玖「そんなことあるわけないよ……」
月江「私はたまたまお姉さんがテニスをしてたってだけで興味を持ってテニスがやりたいって思ったけど、そんな感じでいいんじゃないかなぁ?合わなかったら止めればいいだけだし」
美玖「……」
月江「美玖ちゃんは何も持ってない、自分は不幸だって思ってない?」
美玖「そりゃ思ってるよ。携帯はないし、学校には行ってないし、嫌な事いっぱいあるし」
月江「美玖ちゃんは持ってるよ。まだ気が付いていないだけで、周りの子が持ってないものをちゃんと持ってるはず。携帯を持ってる子がみんな幸せに見える?」
【続】