
病室のドアが開き、おばあさんが出て来る。
「落ち着いてね。今、お水持って来るから」
私はおばあさんがナースセンターの受付で待っているのを確認してから病室に入り、ゆっくりと月江に近づく。月江は小さく口を開け、物音のする方に顔を向ける。私は涙を袖で拭いて、月江に顔を近づけた。
「月江……」
「もしかして話聞いてた? 違うの……全然違くて」
「大丈夫だよ。ごめんね。私には月江がいるもんね」
「美玖ちゃん……ちょっと顔を」
「え……」
月江がスッと顔を突き出し、私にキスをした。私は驚いてしまい思わず離れる。月江は唇を噛みしめ、黙り込んでしまった。私は何が起きたのか分からず頭が真っ白になってしまった。
「女の子同士で変だよね……気持ち悪いよね……」
「そ、そんなことないよ。私も月江のこと好きだし、でも、ちょっと驚いたと言うか……」
「……」
「……そろそろ行くね。また……」
「うん。あの……また来てね」
※
「あなた大丈夫?顔色が悪いわよ」
「……大丈夫です……」
学校へ向かう途中の公園のベンチで座っていると声をかけられた。俯いていなかったので表情は分からないけど、黒いタイツにパンプス、声の感じから若い女性だと思う。私は立ち上がり、俯いたまま小さく頭を下げて、その場から離れた。
あの日から三日後、おばあさんから月江が特別支援学校に通うことになったという手紙が届いた。私は複雑な気持ちだった。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。あんなに辛そうだった月江の前に、学校へ行かない目の見える私がまたヘラヘラと遊びに行ってもいいのか。そして、あの時の……。
私は病院へ行くのを止めた。止めたと言うよりも怖くて逃げだしたが正しい。そして、私は私で中学校へ行くことを決意した。お母さんは喜んだけど、少し心配していた。お母さんは最近痩せたような気がする。きっと私が心配をかけたからだ、頑張らなきゃ。
私は焦っていた。学校へ行かなかった一年間はかなり大きい。無駄にしている。今から急に学校へ行っても友達はきっと出来ない。なぜ学校に来なかったかも聞かれる。色々な心配事が次々と浮かんでは消え、私は具合が悪くなっていた。それでも深呼吸をし、お母さんのお守りをギュッと握りしめる。大丈夫大丈夫。
愛「あー美玖だ」
和也「マジだ。すげー、引きこもりが学校来た」
栞「久しぶりじゃ~ん。毎日引きこもって何してたの?」
美玖「……」
栞「相変わらず暗くてつまんないねー」
愛「唯一の友達も障害者の学校行ったもんね」
和也「アイツ頭おかしかったもんな」
美玖「うるさい」
和也「はあ?うるさいのはオマエだろ!!」
また同じ奴等がいる。席は離れているけど嫌な一年になりそうだと思った。三人とも背が高くなり、栞と愛は髪を少し染めている。誠はオタクっぽい男子のグループにいて、こっちをチラチラ見ていた。他のクラスメイトはやっぱり見てみぬふりで、私に近づいても来ない。
【続】