もう少し頑張りましょう #62

 私は24時間体調が優れないでいた。毎朝腹痛で、身体の節々がギシギシと痛む。家を出る前に色々と考えすぎて頭痛がして、学校が見えてくると吐き気を感じる。周囲の子たちが楽しそうに走り抜けて行く後を憂鬱な気分で見つめる。どれだけ頑張っても走っても追いつけないと考えてしまう。鬱っぽい気持ちは心を蝕み、視線を下へ下へと向けてしまう。同じ制服、同じ革靴、同じ鞄、気のせいかもしれないけど自分の持ち物が異常に綺麗すぎる気がする。今日も足が重い。

 クラスでは空気のような存在だった。誰も私に興味がないし、誰もが私から距離をとり、誰もが私を心の中で見下している。でも、私にとっては都合が良かった。直接的に干渉されないから私は黙っていればいい。何も言わずに何もせずに時間が経つのを待てばいい。

 栞たちも、たまに嫌味を言う事があっても以前ほど関わってくることはなかった。でも、栞が時折見せる私を見て鼻で笑う姿が嫌だった。私を下に見て、満足して嘲笑っている目だった。私はその視線を避けて、相変わらず黙り続けるしかなかった。

 そんな日々が続けばいいのだけど、クラスにいると協調性を求められる場面がある。グループで何かをする、仲の良い人と組む。そうなる度に私は胃がグルグルと鳴るのを感じる。担任の志田美鶴先生の溜息も最悪だ。「また貴方ですか」と言って、見るからに嫌な顔をして私と組む。

 志田先生は、出来る人と出来ない人を分別して態度を変える。勉強が出来る子や運動が出来る子、要領が良い子には愛想よく明るく熱心に対応するが、勉強ができない子や運動神経の悪い子、要領が悪い子には笑顔すら浮かべない。「他の子のマネをしてやってみなさい」と言って視線すら合わせない。不得意なものが多いクラスメイト達は見放されたくなくて懸命に頑張るが、出来ない子の烙印を押された子はお気に入りにはなれない。そして、志田先生が一番問題視しているのは私だ。

 私が登校拒否になっている時、志田先生は2回手紙を出して来た。私はお母さんから渡されて読んでみた。私とお母さんを気遣うような文面を長々と書いていたけど、志田先生の心の声がほとんど漏れ出しているような文章に見えた。結局、私の事を考えているわけではなく、私が来ないと自分の評価が下がるし、手紙は面倒、訪問するのも嫌だ……私は手紙をそう解釈した。最終的には、私が自分の意思で登校したのが、志田先生の粘り強い教育による結果だと思われているのは少し気持ちが悪い。

【続】