
私は自分の部屋に籠った。今の精神状態じゃ病院に行っても迷惑になるだけだ。お母さんを心配させる事も言わない方がいい。こんなボロボロの制服をお母さんが見たらどんな気持ちになるか……考えただけでも辛い。私は鼻を啜って、涙を拭った。汚れた眼鏡を拭いて、涙がレンズを濡らす度にまた拭いた。眼鏡はすっかりズレてしまい、目元が擦りすぎてヒリヒリする。肌も赤く腫れてる。口が渇く。
自分より惨めな人間がいるんだろうか。学校にも行けないで家に引きこもって、大切な友人はいなくなってしまい、お母さんも入院。貧乏だバカだと毎日言われて……。どうして自分ばっかり……。さっきの教室での出来事を思い出し、私はトイレに駆け込んだ。濁った胃液が便器に飛び散った。鼻水と涙が止まらず、私はシャワーを浴びることにした。
呆然とシャワーを浴びながら、私は自分の姿を見つめる。虚ろな目をした女の子が立っている。暗くて、大人しくて、弱そう。目が腫れていて、目の下には黒いクマ、顔も鼻も赤く、鼻水の跡が付いている。手足も汚れていて、他人が見れば、この子はいじめに遭ってるんだろうなあと思うだろう。私は力強く身体を擦った。さっき触られた場所を何度も何度も皮膚が真っ赤になるまで擦り続けた。
「なんで……私だけ……こんな目に……こんな目に遭うの……最低、最低……」
ナジャ様「じゃあ私と美玖ちゃんは今日からオトモダチね」
美玖「……え? あれ? ここは……あれ?」
ナジャ様「あ……もしかして飛んじゃった?」
美玖「飛んじゃったって何ですか? 私、確かお風呂で……」
ナジャ様「美玖ちゃんの世界の時間と私の世界の時間って誤差があるのよ。美玖ちゃんが『仲良くなりたいです』って言ったのは数秒前、けど美玖ちゃんの世界では何年も経過してる」
美玖「そうなんですか……」
ナジャ様「ちなみにアリスちゃんを生き返らせる事も親友ともう一度会う事もお母さんを退院させる事も私には出来ないわ」
美玖「……私なにか言いました?」
ナジャ様「言いたいと思っている事に答えてみたの」
美玖「……」
ナジャ様「いないと思えばもういない。会えないと思えばもう会えない」
美玖「じゃあ、どうすればいいんですか?」
ナジャ様「いると思えばいる。貴女は何にもないと言う、誰もいないと言う、携帯電話がない、居場所がない、友達がいない……」
美玖「だって、実際に誰も……」
ナジャ様「ホラまた。考え方を変えなさい。アリスちゃんはいる。月江ちゃんにはまた会える。お母さんは退院できる」
【続】