
お母さん「叔母さんに会った?」
美玖「うん……」
お母さん「ごめんね。すぐ良くなると思うんだけど……」
美玖「うん」
お母さん「学校は?」
美玖「……」
お母さん「無理に行かなくてもいいからね。月江ちゃんと連絡は取れないの?」
美玖「うん。でも、私は平気だし……」
お母さん「そっか」
言葉が繋がらず、変な間が出来てしまう。自分が話したい事と今のお母さんの事がごちゃ混ぜになって、ちゃんと話が出来ない。頭の中と心の中がメチャクチャで、とにかく辛い。私はベッドの横にある椅子に座って、静かにお母さんを見つめた。明るくて元気なお母さん、だけど顔色が悪く、皴も増えたような気がする。なんだか嫌な気持ちになる。
美玖「いつ退院できるの?」
お母さん「まだわからないの。検査をして、その結果次第みたいね」
美玖「だ、大丈夫……だよね?」
私はドキドキしてきた。急に心拍数が上がったような気がする。涙が浮かぶけど、私は瞬きをしないで目を開く。瞼を閉じたら涙が零れてしまう。お母さんを悲しませたくない。安心していて欲しい。私が学校でどんな扱いをされているのか、それを知ったらどんなに悲しむだろう。
お母さん「大丈夫大丈夫」
お母さんが私の手を両手で握り締める。細い手は真っ白で骨が浮かび上がっていた。そして、冷たい。私は小さく鼻を啜った。
美玖「うん……大丈夫だよね」
お母さん「美玖は頑張り屋さんだからね。無理はしちゃダメだよ」
美玖「わかった……」
お母さん「お母さんはしばらく帰れないけど、家の事出来る?」
美玖「出来る。出来るから早く戻って来てね」
お母さん「うん。すぐに戻る」
美玖「……本当だよね」
不安な声が漏れてしまった。なるべく動揺しないように気を付けていたけど、ダメだった。心が弱っているからだ。私は自分の弱さにガッカリした。
お母さん「そんなに悲しい顔しないで、月江ちゃんも言ってたでしょ? 美玖は笑顔がすっごく可愛いんだから」
美玖「そんなことないもん……」
お母さん「……そろそろ帰りなさい。暗くなるから」
美玖「明日も来るね」
お母さん「嬉しいけど無理に来なくてもいいからね」
美玖「わかった」
お母さんがさっきよりも強く私の手を握りしめた。私は無理矢理口角を上げて、笑顔を作ってみた。ぎこちなかったし、きっと変な顔だったと思う。それでも、お母さんは嬉しそうだった。私はそのまま病室を出て、トイレの個室に駆け込み、声を出して泣いた。
【続】