もう少し頑張りましょう #71

栞が四つん這いになった私の横腹を蹴り上げる。私はお腹を押さえながら立ち上がり、雑巾を片手に歩きだした。床に飛び散ったオシッコが見え、全身に鳥肌が立った。体の震えが止まらない。クラスメイトが気の毒そうに、興味深そうに私を見つめている。私はしゃがみ込み、顔をしかめながら雑巾でオシッコを拭く。

愛「もっとちゃんと拭けよっ!!」

美玖「う……うううう」

栞「あはははは、汚―い。あーあー手と制服にグマのオシッコが付いちゃったねー」

愛「ほらほら、早く拭かなきゃ終わらないよ~」

和也「きったねー。グマ係、頑張れよ」

美玖「はあはあっ……」

愛「何はあはあ言ってんの? グマのオシッコに興奮してんの?」

羽柴「ぎゃははははは、なんだよそれ。変態女じゃん」

栞「どうせ、いつもの発作でしょ? 死にそうな魚みたいで笑えるよね」

愛「はいダメー。お前すぐ逃げようとするからなー」

 愛が逃げようとする私の両肩を押さえつける。私は泣きながら雑巾で拭き続けた。手、膝、制服が汚れ、それでも拭くように強制された。栞がバケツを床に置き、足で私の斜め前に動かす。私は必死に雑巾を絞り、拭いた。

栞「あはははは、ウケるーメッチャ早い」

愛「まるで機械みたいだね。はい頑張れ頑張れ~」

グマ「頑張れ頑張れ~」

和也「お前の小便だろ!!バーカ!!」

栞「いっそのこと付き合っちゃえばいいのに。障害者同士でお似合いでしょ」

愛「確かに~グマの介護してるから、もうほとんど奥さんみたいもんだしねー」

栞「あー、次体育だから行かなきゃ」

愛「行こう行こう」

美玖「あ……」

愛「あーごめんねー足が滑っちゃった」

栞「愛ひどー」

愛がバケツを蹴り上げ、再び液体が床に飛び散る。呆然とする私の髪を栞が掴む。

愛「どうせ体育見てるだけでしょ?毎回見学なんだから遅れて来いよ」

栞「逃げないでちゃんと片付けとけよ。じゃなきゃマジでボコるからな」

美玖「う、うん……」

愛「お前は奴隷なんだから敬語使えよ」

美玖「……はい」

栞「じゃ、片付けよろしく~」

クラスメイトは教室を出て行った。残された私はバケツを起こし、また雑巾で液体を拭いた。逃げ出しても泣き叫んでもよかったかもしれない。でも、今の私には出来なかった。暴力を振るわれて、酷い声で怒鳴られるくらいならまだマシ。私はだんだん自分を見失ってきた。

「長谷川さん、遅いですよ」

美玖「……はい」

「早く着替えてきなさい」

美玖「きょ、今日は見学……」

栞「先生。私、美玖ちゃんと組みます」

愛「私も~」

【続】