
栞が四つん這いになった私の横腹を蹴り上げる。私はお腹を押さえながら立ち上がり、雑巾を片手に歩きだした。床に飛び散ったオシッコが見え、全身に鳥肌が立った。体の震えが止まらない。クラスメイトが気の毒そうに、興味深そうに私を見つめている。私はしゃがみ込み、顔をしかめながら雑巾でオシッコを拭く。
愛「もっとちゃんと拭けよっ!!」
美玖「う……うううう」
栞「あはははは、汚―い。あーあー手と制服にグマのオシッコが付いちゃったねー」
愛「ほらほら、早く拭かなきゃ終わらないよ~」
和也「きったねー。グマ係、頑張れよ」
美玖「はあはあっ……」
愛「何はあはあ言ってんの? グマのオシッコに興奮してんの?」
羽柴「ぎゃははははは、なんだよそれ。変態女じゃん」
栞「どうせ、いつもの発作でしょ? 死にそうな魚みたいで笑えるよね」
愛「はいダメー。お前すぐ逃げようとするからなー」
愛が逃げようとする私の両肩を押さえつける。私は泣きながら雑巾で拭き続けた。手、膝、制服が汚れ、それでも拭くように強制された。栞がバケツを床に置き、足で私の斜め前に動かす。私は必死に雑巾を絞り、拭いた。
栞「あはははは、ウケるーメッチャ早い」
愛「まるで機械みたいだね。はい頑張れ頑張れ~」
グマ「頑張れ頑張れ~」
和也「お前の小便だろ!!バーカ!!」
栞「いっそのこと付き合っちゃえばいいのに。障害者同士でお似合いでしょ」
愛「確かに~グマの介護してるから、もうほとんど奥さんみたいもんだしねー」
栞「あー、次体育だから行かなきゃ」
愛「行こう行こう」
美玖「あ……」
愛「あーごめんねー足が滑っちゃった」
栞「愛ひどー」
愛がバケツを蹴り上げ、再び液体が床に飛び散る。呆然とする私の髪を栞が掴む。
愛「どうせ体育見てるだけでしょ?毎回見学なんだから遅れて来いよ」
栞「逃げないでちゃんと片付けとけよ。じゃなきゃマジでボコるからな」
美玖「う、うん……」
愛「お前は奴隷なんだから敬語使えよ」
美玖「……はい」
栞「じゃ、片付けよろしく~」
クラスメイトは教室を出て行った。残された私はバケツを起こし、また雑巾で液体を拭いた。逃げ出しても泣き叫んでもよかったかもしれない。でも、今の私には出来なかった。暴力を振るわれて、酷い声で怒鳴られるくらいならまだマシ。私はだんだん自分を見失ってきた。
「長谷川さん、遅いですよ」
美玖「……はい」
「早く着替えてきなさい」
美玖「きょ、今日は見学……」
栞「先生。私、美玖ちゃんと組みます」
愛「私も~」
【続】