もう少し頑張りましょう #77

 自尊心を傷つけられ、心をメチャクチャに壊された私は、何も反抗できないまま震える手でブラジャーを外した。身体を強張らせ、暗い表情のまま俯く。愛衣が私のブラジャーを奪い取り、右手でくるくると回してる。二人がジロジロと私の体を見つめた。

愛衣「オッパイの形変じゃね?」

栞「形悪~。でも乳首ちょっとデカくない?」

愛衣「しかも黒乳首じゃん。キッショ」

美玖「痛いっっっ!!!!!!」

栞「こっちの乳首だけデカくしよーよ」

美玖「痛い痛い痛い!!!!!!」

愛衣「あはははははは、それいいね。おい、毎日乳首弄ってデカくしろよ」

栞「あーあー体中にあざが出来て可哀想~」

愛衣「他人事みたいに言うなし。栞がつけた傷じゃん」

栞「アンタもね。じゃあ写メ撮ろっか」

美玖「!!」

愛衣「あ!!逃げんなよっ!!」

美玖「嫌だっ!!嫌だっっ!!!!」

栞「残念でした。もう撮っちゃったよ~」

美玖「……!!」

愛衣「うわ~凄い顔。この世の終わりみたいな顔してんじゃん」

栞「顔入りでオッパイはヤバいねー。特定されたらレイプされちゃうんじゃない?」

愛衣「あははは、夜道は気を付けてね~」

美玖「……」

 愛衣がブラジャーを投げつけてくる。私は涙を拭い、呼吸を荒くしながらブラジャーをした。目の前は真っ暗で頭の中も真っ暗で、自分だけがずっと深い暗闇の中にいるみたいだった。目の前で笑っている二人の声がずっと離れた場所から聞こえてくるみたいだ。

栞「面白い写真撮れたから土下座は勘弁してあげる」

愛衣「よかったねー。さっさと帰ったら? お母さん死んでるかもよ」

美玖「……」

私が女子トイレから出ようとすると「やばいやばい」という男子の声と上靴が廊下に擦れる音が聞こえた。聞き耳を立てていた男子達が逃げて行ったんだと思う。びしょ濡れで走り去っていく私の後ろでひそひそと何かを話す声が聞こえた。

その日は病院に行かなかった。笑顔が作れそうになかったし、愛衣の言葉がいつまでも頭にこびりついていて、お母さんの顔を見たら泣いてしまいそうだったから……。お母さんに「今日は体調が悪いから病院に行けないかも」とメールを送ったら、OKというスタンプが届いた。狭い病室でお母さんは大丈夫かな……。今度ぬいぐるみを持って行ってあげよう。

私は近所で買ったコンビニ弁当を食べ、包丁を鞄にしまい、テレビを付けた。テレビの色が灰色に見える。

美玖「……」

 私はテレビを消し、服を脱いだ。暗い自分の部屋へ行き、姿見の前で立つ。廊下のライトが背中に当たり、黒いやせっぽっちの影が姿見に映し出された。弱弱しくてか細い、いじめられっ子の体だ。惨めで無様で恥ずかしい、奴隷だと言われて毎日いじめられている。明日も明後日もきっと酷い事をされるんだろう。心も体も傷つけられるんだろう。黒いやせっぽっちの影がしゃがみ込み、形の悪い丸になる。このまま大きな黒い丸になって、そのまま消えてしまえれば、楽になれないだろうか。

【続】